4/25『明日の学校を求めて~オランダ・イエナプラン教育に学ぶ』ZOOM講座レポート
4月25日(土)、オランダ・イエナプラン教育に関する講座を、オンラインに切り替えて、開催いたしました。
講師に、リヒテルズ直子氏(日本イエナプラン教育協会初代会長、現特別顧問)をお招きし、
- 「イエナプラン教育」の概念
- イエナプランが重視している「自由」とは?
- どのように学校を変えていくか?
- 今練馬区で、私たちができることは…?
など、たっぷりご講演いただきました。
内容の濃い2時間の、ポイントをお伝えします!
【1】「イエナプラン教育」とは?
★19世紀末に起きた、新教育運動が背景
19世紀末、急速な都市化が進み、子どもたちの劣悪な環境が、問題になっていました。
そのなかで、「産業化と軍事化のための教育」から「子ども中心の民主的な市民社会のための教育」をめざす、新教育運動が、背景になっています。
★ドイツで生まれ、オランダで広がる
「イエナプラン教育」は、その新教育運動のなかで生まれました。
1927年にドイツのペーター・ペーターセンが世界新教
イエナプランは、一人ひとりの発達や個性を尊重しながら、自律と共生を学ぶことを重視しています。
★創始者ペーターセンの言葉
- 「人間の学校」
- 「共同体としての学校」
- 「自由」
創始者であるペーターセンは、人間として、全人的に発達する場としての「学校」を目指しました。
「全人的」とは、認知的能力(科目の知識やスキルを学ぶ
★方法ではなく、ビジョン
イエナプラン教育は、授業方法やメソッドではなく、ビジョンです。「未来を生き、積極的に社会へ働きかける地球市民を育てる教育」といったビジョンを掲げています。
- すべての子どもはユニーク(唯一無二の存在)であることを認め
、子どもたちのユニークさを尊重し、子どもたちが、お互いのユニ ークさを尊重して生きることを学ぶための教育 - 頭で学ぶ知識やスキルだけでなく、
心や手の発達を学ぶための教育 - 子どもたちが既存の社会に適応できるようにするのではなく、
自ら社会に関わり、 より良い社会の建設に貢献したいと思えるようになるための教育 - 子どもたちが自分と他者を同時に大切にし、
みんなで世界を大切にすることを学ぶ教育
【2】グローバル社会で求められる教育
急速に進むグローバル化に対応できる力を身につけることが、これからの教育に求められています。
★グローバル社会では、どのような現象が起きているか?
- 国境を越えた経済活動・産業活動
- 人や物の流れ、異文化交流の増加
- 情報とテクノロジーの国際交流
- 国境を越えて解決を必要とする問題の増加
★グローバル化の時代に、子ども達が身につけなければならない力とは何か?
- 世界を身の回りの環境と関連づけて、探求する力
- 自分と他者の立場を理解し受け入れる力
- (例)コロナウイルスに関してアメリカ、中国、WHO
→日々変化するそれぞれ(諸外国)の立場を理解できているか? - 日本は英語教育がとても遅れている。
- アフリカ・アジア・ラテンアメリカの人などは、飢えるように英語を使って先進国で何が起きているかを読んでいる。
- 英語ができればいいという話ではなく、世界の状況に大人が敏感にならなければいけない。
- (例)コロナウイルスに関してアメリカ、中国、WHO
- 自分の考えを効果的に多様な受け手に伝達する力
- 言葉をどのような文脈で受け止めるか。
- 発信者と受け手の考えの枠組みが違う場合、
どのように翻訳するか。
- 問題解決のために自らの考えを行動に移して実行する力
- 市民として関わり、自由な意思をもち、
社会に対して責任のある存在として、 世界に対して行動できる人をつくる。
- 市民として関わり、自由な意思をもち、
たとえば…
(例)毎日飲む水がどこからきて、どうやって飲めるものになり、どこへ
(例)毎日使っているものは、どこからきて、どうやって作られ、
を考えると、世界がつながっていることがわかります。
また、コロナウイルスについても、「感染」「経済への影響」「コロナが収束したらどんな世界を作っていこうか?」等を考えると、環境を考えることにつながります。
【3】日本の現状…
★「競争」ばかりで、「協働」の経験が少ない
グローバル社会、国際社会は、私たちが子どもの時から言われてきたことですよね。
しかし日本の学校教育は、残念ながら、とっても遅れていると言われています。「競争」ばかりで「協働」の経験が少ないため、グローバル社会で必要となる能力を十分に身につけられていないのが現状、とのこと……。
★2020年度開始の「新学習指導要領」、問題点は?
今年度始まる「新学習指導要領」も、問題点が指摘されました。
- 主体的・対話的で深い学び
- 主体的とは? 対話的とは? 「深い」とは?
- 本来の「主体的」⇒子ども達が学習に対してオーナーシップを持つこと。
子ども達が、「自分の学習は自分ためにやっている」 という気持ちになること。
- 外国語教育・プログラミング教育・道徳教育の教科化
- それぞれ何を目指して行われるのか?なぜ大切なのか?
- 「外国語教育」⇒世界中のほとんどの学校がバイリンガルの時代。
自国を外から見直すことができるので、 母国語以外の言葉を話せることは重要。 日本は外国語を使って探求するところまでいっていない。 - 「プログラミング教育」⇒文科省は、
子どもにもわかる単純化された日本語のプログラムを作っているが、素材は世界中にある。それを使えば一緒に英語も学べる。 - 「道徳」⇒グローバル社会は、色々な道徳教育がある。その中で共通のもの、特殊なもの……お互いの育ってきた道徳環境を尊重できなければいけない。道徳教育より、「市民性教育」
とするべき。
- 社会との繋がり、社会に開かれたもの
- 社会とは「現実」世界のこと?
- 近隣・国・地域・世界をどう捉えているのか?
【4】イエナプラン教育の特徴
★グローバル社会で活きる教育
イエナプラン教育は、グローバル社会で、今まさに求められている教育だと言えます。
- 頭で学ぶ知識やスキルだけでなく、心や手の発達を学ぶ
- 子どもたちが既存の社会に適応できるようにするのではなく、自ら社会に関わり、より良い社会の建設に貢献したいと思えるようになる
- 子どもたちが自分と他者を同時に大切にし、みんなで世界を大切にすることを学ぶ
- ホンモノの物事を題材に、ホンモノの自分を見出し、ホンモノの問いをもって学ぶ
*教科書に書かれた絵や文字だけを使うのではなく。
【特徴1】ファミリーグループ(異年齢学級)
- 子供は、一人一人個性を持ち異なる発達の仕方やテンポを
持っているという考えのもと、異年齢の学級を作り、一人ひとりの 子どもたちの異なるテンポと様式の発達を支援する。 - 子ども達の多様性が増すため、自然と子ども同士の学び合いが生まれたり、協働を促しやすくする。
- 「できる子」と「できない子」が生まれない。
- 違いからの出発。
- 徒弟制がモデル。文化の継承と変革を練習する。
【特徴2】4つの基本活動
- 「対話」「遊び」「仕事」「催し」という4つの基本活動を循環させながら、リズミックに展開する。
- 科目ごとの時間割ではない。
①「対話」
- 登校の直後、朝の授業の終わり、下校の前など、毎日、グ
ループリーダー(担任教師)も含み、グループの子どもたち全員が 、円座になって、お互いの顔を見ながら話し合う。 皆に対して発言できるようになること。 - 発言に対して、しっかりと耳を傾けること。
②「遊び」
- 遊びを通して、初めて人とぶつかる。
- 社会性や情動性、
学んだ知識を使う場面が出てくる。
③「仕事」
- 学習。
- 教科的な学びと教科の枠を越えた総合的な学び。
- 「
一人で計画的にやる学び」と「協働を学ぶための学び」( 協働で何かを作り上げる、総合的な探求学習、催しを準備など) がある。
④「催し」
- みんなで何かを祝う。
- 誕生日、お祭りなど…
- 喜怒哀楽を分かち合い共感する場。
- みんなで一緒に生きていることに気付く。
【特徴3】中核となるワールドオリエンテーション
- ホンモノの、生きた素材への問いかけが出発点となる「総合的な学び」
- 子どもを中心とした「生と学びの共同体」
- 知識やスキルを身につけたり、決められたやり方で順番通りに積み重ねていく「教科的な学び」ではない
- 日本の総合的な学習は、「理科」と「社会」の組み合わせ
のように考えられているが、イエナプラン のワールドオリエンテーションは、理科と社会のみならず、学校で 学ぶすべての教科にまたがっている。 - 「ワールドオリエンテーション」=人間として必要な力を学ぶ、
総合的な学び
例えば、テーマ「水」
- 外国語
- 「水」は英語で「Water」だけ。
- 日本語では「水・お湯・氷」
と、状態により言葉が違う。
- 国語:水に関する詩を作る。
- 算数:水の量を測る。
- 地図:水のある場所を探す。
プレゼン能力:調べたことをプレゼンする。 コミュニケーション能力やメモする力:下水処理場で働く人へインタビューする…etc
ホンモノの世界のシステムを学ぶ
- 例えば、「林檎」について学ぶとき、
林檎の写真を見せるだけではホンモノではない。 - インクが付いた紙でしかない。
- 本物の林檎を持って来たら、
嗅覚・聴覚・触覚などの五感を使った教育ができる。 今までの教育は、視覚と聴覚しか使っていない。
時事も「ホンモノ」
- 子ども達は大人が話題にしている内容をすごく
心配している。 - 時事を取り上げることで一緒に考えるし、
知ることで安心する。 取り上げるテーマは大きなものである必要はない。 - 身近な話題で良い。
- クラス内のけんかや物が壊れたなど。
そこから世界が広がる。
【5】イエナプランが重視する「自由」
「自由」ときくと、つい「自由にさせたら、秩序が乱れる」と思いがちですが、本当の意味で責任を持たせるために、自由が不可欠なのですね。
★なぜ、自由が大切なのか?
- 本当の自由を与えれば、「責任」を持つことを学ぶ。
- 自分が選択する、自分で自分のやる方法を考える、
どちらかを選択する自由がないところに、 責任を問うことはできない。
自由とは、絶対の信頼を置くということ。
- イエナプラン:人間の良さをベースにしている。性善説の教育。
- 今までの学校:人間は放っておくと悪いことをする。
信頼できないから管理しなければならない。 - 人間を信頼したい。
校長には先生を信頼してほしい。 教育行政には学校を信頼してほしい。
全ての人は、デコボコした存在である。
- オランダの教員養成の大学でよく使われている映像教材より
「全ての人は贅沢なほどに自分にしかないたった一つのものを組み合 わせとして持っている」 子ども達を同じように扱わないように教えている。 - 学校に行くことで、
突出してるところは削られ、引っ込んでいるところは「 もっと出ろ、出ろ」と言われる。 - みんな四角になり、並べたり、
積み上げることができるようになる。 - デコボコのままなら、
色も形も異なり、どう組み合わせようか考えるし、 素晴らしいものになる。
★「自由」を育てる「枠組み」
- 自由に枠を作る場合は、「子どものため」であることが大事。
子どもに「これは間違っているよ」といえるのは、 大人の経験と権威。 - 多くの規則は、「大人のため」の規則が多い。
イエナプラン教育では、エゴイズムにならない(秩序を壊さない)ため、子どもたちの「自由」を育てるための「枠組み」も、きちんと考えられています。
①自治
- 誰もが心地よく過ごせるためのルール作りをする。
- 子どもたちが主体。
(例)クラスボックスを活用し、サークル対話で話し合う。 - 「褒め言葉」「質問」「願望」を紙に書き、クラスボックスへ投函する。
- 「苦情」ではなく、「願望」を書くことがポイント。
②学びの目的を示し、選択肢を与える
- なぜ学ぶのか?[Why]⇒学びの目的
(子どもの発達段階にあった学びのチャンスを与える) - 何[What]を使って、いつ[When]、どこで[Where]、どのように[How]
学ぶかを、自分で選択できるようにする。⇒学び方の選択
③自由の範囲を徐々に増やしていく
こどもの自由の範囲を少しずつ広げていくことも、重要です。
★学校に「社会=共同体」があること
- 自由ができるためには学校の中に共同体づくりをしようとする意思
があること。 - 誰か一人だけが贔屓されたり、
成績の良い子だけが優等生になるのではなく、 みんなで作っている社会、常にみんなの声が聞かれている、 常にみんなの関係性が大事にされている。
★学校にいる大人たち(教員と保護者)が模範的に行動していること
- 「自由」を、責任を持って行使していること
- 保護者が一方的に学校だけを批判する、
学校は保護者の悪口を言うのではない。 - (学校も保護者も)ともに子ども達に責任がある。
ともに未来の社会に責任がある。 - 「どうすればよいか?」
を学校と保護者が心を開いて話し合っている、ということ。
【6】どのように学校を変えていくか?
いよいよお待ちかね(?)……学校を変えていくヒントを頂きました。
★日本における学校変革と教育行政の課題
(例)氷山モデル(システム理論などで使われる)
→「見えている部分」だけにこだわる傾向があるが、「見えていない部分」に働きかけていくことが重要!
- 「見えている部分」
⇒教室の環境、教材、子どもにやらせるアクティビティなどを決める - 「見えていない部分」
⇒共通のミッションやビジョン - 「良い学校を作らなければ」「政治や教育制度を変えなければ」…などと考える核となる人々が集まり、戦略(
どのように取り組めばよいか?)を考える必要がある。
つまり、自分たちのビジョンを作りあげること
- 自分たちはどうありたいのか?
- それはなぜか?
何を一緒に生み出したいのか? - …をチームで共有することから始めなければいけない。
★学校と教育行政、保護者、地域について
- 「学校」と「教育行政」は……
- 「ビジョンを共有」する
- 「協働の実践」を行う
- 「ビジョンの共有」と「協働の実践」を繰り返す
- 透明性が担保された関係であること
- 「学校」は、「保護者」「地域」に対して……
- ビジョンを共有するために、
- 確立したビジョンをきちんと説明する
- 学校、行政、保護者、地域がチームとなり、ビジョンを形成するためには、
- 対話し続けること
- 共に遊ぶこと
- 共に仕事をすること
- 共に催すこと…が必要
【7】イエナプランを、公教育へどう取り入れる?
最後に、イエナプランを教育へ取り入れるヒントを頂きました。
- 「小さく始めて、大きく育てる」を心がける。
一気に全てを取り入れようとしない。 - これまでのやり方をすべて否定しない。
「取り入れられるもの」と「残すもの」を考える。 - 原則として、できる(禁止されていること以外は)。
できることは何かを考える。 - グループ構成では、成員の違いが大きくなるように
→男女比、家庭環境、得手・不得手の違い…など。
たとえば……クラス規模が大きければ、小グループに分ける(少人数でなくてもいい。オランダでは、1クラス35名程度)。
できることから、小さく始める……
つまり、今からでも、どこからでも、学習指導要領や法律を変えなくても、できる、ということ。練馬でも、小さなことから、始められる、ということですね!
【8】質疑応答(一部)
- Q
- 日本の学校教育では、「平等に教える」ことが重視されていますが…?
- A
- 「平等」とは同じことを与えることではありません。
その子どもにとって必要なものを与え、その子どもの成長を保障する。本当の意味での平等は、 一人ひとりに違うことをすることです。
講座の感想
グローバル社会の中で、一人ひとりが幸せに生きられるようにするには、日本の公教育も、社会の変化に合わせて変わっていく必要があります。
「イエナプラン20の原則」にもあるように「一人ひとりが、かけがえのないユニークな存在」として尊重され、それぞれのよさを伸ばす教育へとシフトする必要があると思います。
いじめや不登校、自己肯定感の低さなど、日本の学校が抱える問題は、40~50年前から現在に至るまで変わっていない……そう聞くと、とっても焦ってしまいますが……。
「小さく始めて、大きく育てる」(スモールステップ)
→私たち自身から、始められる、ということ!
たとえば、サークル対話。クラスのルールや校則の一部を、子ども達の話し合いにより決める……。あるいは、地域の小さいな集まりのなかで、ビジョンを共有する話し合いを始める……。
今日教えていただいたことをもとに、次の”スモールステップ”を、考えたいなと思います。
リヒテルズ先生、ありがとうございました!