東大泉第三保育園の民営化……何が変わる?課題は?
※2022/7/26、練馬区議会、文教児童青少年委員会のレポートです。
東大泉第三保育園の民営化
練馬区はこれまで、区立保育園の民間委託を進める一方、その先にある「民営化」の準備をしてきました。
現在、高野台保育園のみ、民営化への移行を進めています。
さらに、東大泉第三保育園を民営化する、と発表されました。
詳細や課題を、お伝えします!
これまでの経緯
★4園で民営化を検討
委託が始まった初期に委託され、委託更新満了の15年を迎える4園(東大泉第三保育園のほかに、光が丘第八、石神井町つつじ、向山保育園)。
この中から、次に民営化する保育園を検討していました。
他の施設と併設していると民営化しにくい…などあり、
- 併設あり:光が丘第八保育園、石神井町つつじ保育園
→委託を継続 - 併設なし:向山保育園
→築47年と建物が古い
→民営化の協議を継続
となりました。
古いとなぜ協議が継続なのかというと、どちらがどのようにお金を出して建て替えるのか等で、課題があるためです。
向山保育園の場合、
①区がお金を出すのか、事業者が出すのか?
②建替えてから民営化するのか? 民営化してから建替えか?
③近くに移転 or 仮設を作って現在地で建替え
…などを協議しているとのこと。
そのうち、東大泉第三保育園で、民営化が決まった、という経緯です。
★残る直営園は?
現在、60の区立保育園のうち、
- 現在→直営34園、委託26園
- 2029年度(令和11年度)→直営20園、委託40園に
- ※高野台、東大泉第三が民営化されれば
→直営20園、委託38園に
民営化の概要
★土地、建物は無償で
- 土地は無償貸し付け→30年間
※区の規定の上限が30年
※更新可能→改めて協議 - 建物は無償譲渡
★移行期間
- 移行期間は5年間
- 前倒しの場合アリ
※高野台保育園は2年前倒し
★スケジュール
- 7月~:保護者への説明(2日間の個別説明)
※谷原保育園のときもそうですが、また個別!
全体説明会はやりません… - 7月~:運営事業者と協議
- 2027年度(令和9年度):練馬区議会に議案提出
- 2028年度(令和10年度)を目途に民営化
課題は?
【課題1】保育の質は向上するのか?
これまで練馬区は民間委託などにあたって、→保育サービスの向上が理由だと説明してきました。
今回の民営化によってどのようなサービスが向上するのか?
を聞いたところ…
- 現在の委託園で実施していることを維持する前提
- 障害児枠→定員を増やす
- 事業者がやりたい保育…たとえば運動や造形など、「ワンランク上」の保育が提供できる
と答弁。
障害児枠を増やすのはよいですね!(今の区立園でもやればよいことですね!)。
しかし、たとえばで挙げたものが「ワンランク上」というのは、非常に残念な答弁…。
保育の本質を理解しているとは思えません。
保護者のニーズはあると私も思いますが、保育の本質自体とは、関係がないからです。それを「ワンランク上」と考えていること自体、保育を理解しているのか?と疑ってしまいます。
人員体制の強化といった、保育の質に関わる話が出てこないことが、大変残念です。
逆に言えば、民営化しても、人員体制など本質的な部分は改善できないのではないでしょうか。それは、経費削減が目的であれば、当然かもしれません。
【課題2】現在の環境は維持されるか?
民営化されれば、どのように運営するかは、事業者の自由となります。
サービス水準の担保については、
- 「区が必要とする保育サービスを実施する」協定を締結
- 土地が練馬区のもののため、区の関与はなくならない
と答弁。
どのような内容を協定に盛り込むかが、重要となります。
(…が、先ほどの練馬区の答弁からは、保育の質向上のための協定が結べるかは、望み薄かな、と思ってしまいます)
【課題3】保育の安定性
そもそも委託をした時点で、いつかは再公募となり、事業者が変われば、また子どもたちは大きな環境の変化に苦しみます。
つまり子どもたちのことを考えれば、委託の先には民営化がある。
委託の時点で、民営化がセットになってしまうのです。
委託時の、「委託しても変わらない」という区の説明自体が問題だと思うのですが…
一方で、保育士たちが変わらずに継続すること、安定した保育を続けられることが、子どもにとって最善の利益と、私は考えます。
その点、区の考えを問うたところ……
- 運営事業者は、永続的に運営したい
- 子ども、保護者と信頼関係を築いている事業者に担っていただける
- 大きなメリット
と、答弁。
一方の口ではそう言いながら、区立谷原保育園は閉園するのだから、大きな矛盾ですが……。
【課題4】民間=経営の難しさにさらされる
保育の安定、という点で……
今、私立の保育園では、0歳児が減って「経営が厳しい」等の声があがっています。
国でも見直しの動きがあるような話はあるようですが、
私立の保育所は常に、経営の難しさにさらされているのが現実です。
また、保育士不足も深刻。実際に、ネットで調べたら、東大泉第三保育園の求人が掲載されていました。
求人にも苦労されているのではないでしょうか?
その点をどう考えるのか。
また、民営化後、どのように区としてサポートしていくのか?
を聞いたところ……
- 求人は、常時募集するもの
- 求人に苦労しているから募集をかけているのではない
……どこも人手不足のなかで、「求人には苦労していない」と言ってのける練馬区。保育現場を理解しているのかな?と思ってしまいますが…
- 経営面→区としてサポートしていく
とも言いましたが、中身をきくと、あくまで、キャリアアップ補助金など、練馬区が今やっている施策を続けるに過ぎません。
独自に支援をしたり、経営難に陥った時に救済する、といったことは想定していません。
(ちなみに、私立園が運営困難に陥ったときに何とかするのは、区立直営園の役割)
【課題5】区立の強み=保育の安定性
なぜ、民間が経営が難しいかというと、保育園児の在籍数をベースに、運営費が算出されるため。
国の規定ですが、この方式だと、受け入れに余裕を持たせたりできないのです。
経営の心配がない区立園の保育の安定性は、大きな強みではないか?と聞くと……
- 区立の委託園→園児の在籍ベースに関わらず、委託料を支払う
- 在籍数に関わらず運営費が出る→「差が出る」
と、はっきりと「差が出る」ことを認めたのです!!!
運営の安定は、保育の安定につながります。
私立園の経営の難しさ等の課題に向き合わず、民営化すればよくなる、とだけアピールすること自体にも、大きな問題があります。
【課題6】保護者との運営委員会は打ち切り
委託園では行っていた、保護者・事業者・区の三社の運営委員会。
民営化では、「考えていない」と答弁。
つまり、実質的に後退となります。
【課題7】区の財産を「無償譲渡」でよいか?
東大泉第三保育園の場合、2006年(平成18年)にでき、まだ16年と新しい建物(ちなみに、建てた時点から委託運営)。
建設費は、約1億7千万円でした。
他の私立園は当然、自前で建てたり、借りたりします。
なぜ同じ私立園となるのに、民営化する保育園だけが、建物の無償譲渡なのか。
もちろん、子どもたちのために、事業者には安定した運営を続けてほしい、という前提ですが、
他の私立園との公平性、平等性の点を問うと……
- 民営化時点で築22年
- 修繕、改修の費用は事業者が負担
- 常勤配置など、区の水準を維持することが、無償譲渡の理由
とのこと。
区の水準とは何か、それは無償の理由として十分なのか、協定だけで担保できるのか
……といった観点が、改めて、問われます。
↓委員会資料