桜台住民必見!木密(木造住宅密集事業)勉強会レポート
震災時に延焼被害のおそれのある「木造住宅密集地域」に対する事業。
――略して「木密(モクミツ)」。
練馬区は桜台の一部を「重点地区まちづくり計画を検討する区域」に指定し、この「木密」を実施する予定です。
対象地域は、桜台2丁目を中心に、桜台1丁目、3丁目、4丁目の一部。
どのような事業なのか?桜台がどう変わるのか……?
一級建築士の樋口学さんを講師にお迎えし、勉強会を開催しました。
はじめに~木密は防災から目のカタキにされている!?
樋口さん「木密は、防災からは目のカタキにされている状況です(笑)。まるで、木密を都市のガン細胞のように扱って、なくしていこう、という事業が、木造住宅密集地域事業です」
樋口さん「一方で、木密の魅力を感じ、惜しむ声もあります」
樋口さん「安全とまちの魅力→どういうことが考えられるか?といったことも、話していきたいと思います」
1:計画の概要
↓練馬区の資料「重点地区まちづくり計画を検討する区域の指定の理由書」によると…
★目的=消防活動困難区域の解消+生活道路の整備
- 「消防活動困難区域を解消するため生活道路の整備を進める」
★なぜ桜台か?
- 「桜台二丁目が震災時に延焼被害のおそれのある木造住宅密集地域に抽出」
★まとめると…
「木造住宅密集地域の改善」のために…
↓
・消防活動困難区域の解消
・延焼防止対策
を行う。
↓
具体的には、
・道路の拡幅・新設
・公園・緑地の整備
・建物の不燃化・耐震化の促進
・建物の共同化の促進
等を行うのが、木密の事業です。
2:そもそも木密(木造密集地域)とは何か?
①木密の定義:3つの条件
↑「東京都防災都市づくり推進計画」に、「木密」の定義として、3つの条件が書かれています。
★なぜ「木密」ができたのか?
- 資料によれば…
- 戦後復興期から、都市基盤施設が整されないまま住み始めた
- 山手線外周部を中心に
- それには、歴史的な背景、社会的階層も要因として考えられている
★3条件の一つ「昭和55年以前の老朽木造建築物棟数率:30%以上」の意味
- 昭和55年より前は、具体的な規定はなかった
- 大工さんの長年の経験やカンなどでつくっていた
- 昭和54年までの建物は耐震性が弱い
*ちなみに「1ha55世帯」→ゆるい、優雅な地域(笑)。どこでもかけられる基準。
②東京都全体と比較すると…
★不燃化特区=練馬区にはない
- 木密(資料の黄色い部分)のなかで、特に条件が悪い所
→「不燃化特区」(資料1-7の赤い部分)
→練馬区にはない! - 不燃化特区は山手線の外側、環七の間あたりに点在
- 当面→不燃化特区の改修が目標
- 練馬にはないが、木密を改善事業の一環としてやっている
③木密と、特定整備路線との関係
★特定整備路線と「木密地域不燃化10年プロジェクト」
- 特定整備路線とは…大型の都市計画道路
- 「木密地域不燃化10年プロジェクト」…オリンピックに間に合わせ、きれいな安全なまちをつくる目的
- 実際オリンピックまでにできていないが、あきらめていない
→引き続きやることになっている - パンフレットの写真は阪神淡路大震災のもの
→阪神淡路大震災から教訓を得て防災都市をつくるという象徴
④木密事業が想定する背景
★どういう状況で、木密の施策を行おうとしているか(↑図参照)
- M7.3想定の大震災
*強風の有無、風の向きなど想定する条件を何通りか加味しつつ… - 建物が倒壊
→火災が発生
→延焼
→大火災
…という想定 - 「防災都市づくり」というと、この想定を指す
★教訓は関東大震災と阪神淡路大震災
- 関東大震災の教訓=燃えないまちづくり
- 阪神淡路大震災の教訓=倒れない建物
- 阪神淡路=延焼は全体の1.3%
- 死傷者=倒壊、家具→圧死の被害が大きかった
- 倒れないように耐震化、共同化をはかる
- 建築基準法を改正して、耐震基準の強化
- 倒れても燃え広がらないように→不燃化、防火性能、基準の強化
- 桜台の木密も、新防火地区をかけると言っている
- 厳しい防火基準でないと建てられないようにしていく=建て替えるときの要件になる
★それでも燃え広がった時のために→延焼遮断帯の形成
- 都市計画道路と一体となった形成
- としまえんの避難場所の問題も、ここに関わる
- 関東大震災→お昼時+強風のために燃え広がった
- 阪神淡路は違う条件で起きた→今は倒れない対策へ、重点が置かれている
⑤消防活動困難区域とは?
*↑資料について
- 国交省→国土技術政策研究所が基礎資料をつくって発表
- それをもとに政策が作られたりする
- その資料から持ってきているもの
★消防活動が可能な区域とは
- 消防水利に消防車をとめ、ホースが届く距離
- 消防車は「消防水利」等があるところにとめ、ポンプを伸ばす
- 黄色く囲われたマンホール=消火栓
- 大規模マンションなどに水槽→地下にもうける行政指導をしているところがある
- 防火水槽→タンクが埋め込んである
- ホースそのものは400メートルのびる
→いろいろな条件があって280メートルに設定 - 消防活動が容易にできる→140メートル
- 「ここは大丈夫ですか?」と消防署にきくと、大体「消火活動できますよ」と応える
★「震災時」と「平常時」は分けて考えることが重要!
- 消防活動困難区域=震災時
- 平常時と分けないと、平常時も「ここは火事で危ない」等と誤解されてしまう
- 災害時はなんでもやる=ホース400mに設定。平常時は200m
- 平常時と震災時を混ぜて考えないことが重要!
- 4m道路でも消防活動はできる
- 消防水利はあちこちにある
⑥延焼と不燃領域率
★「不燃領域率」(不燃建築物と空地)が重要
- 不燃領域率が60%以上になると焼失率は0%に近づく
- 70%になればほとんど焼失はおこらない
- 不燃化をあげることが重要!
- 「準耐火建築物」なら不燃領域率にはいる
→木造でも十分対応できる - 必ずしもコンクリートでなくていい
3:桜台の木密事業について
①桜台が選定された経過
- 練馬区内の木造密集地域→練馬区全域にある=40町
- 40から16を選び出し
→そのなかからさらに緊急度の高いものを選び出した
→それが桜台 - 図のグレー=木密が終わったところ・事業中のところ(北町、貫井、江古田、富士見台)
- 桜台が終われば、図の青いところが次の候補
②指定された区域
★北側1/3
- 北側→開三中まで
- 東側は昔の水路まで
- 西側→桜台6丁目かかるあたり→昔の水路あと
★中央
- 中心を補助172号線が横断する計画
★南1/3
- 桜台1丁目
- 当初の計画ではなかった桜台通りの西側まで、計画区域をかけた点が重要
- 南側は、千川通りまで含む
③桜台にある他の計画
- 北側→放射36号線のまちづくり計画と重なる部分があり、一部だぶっている
- 新たに「再開発促進地区」に入っている
- 今のところ具体的な建築制限はおきていないが、今後どうなるか注視する必要がある
④平成31年の検討図(現況図)からの変更点
- 桜台通りの西側が変更された部分(事業範囲が拡大されたことがわかる)
- 青→耐火建築物がどのくらいあるか
→桜台1丁目はかなりある - 幅員4m道路→赤くぬってある部分
- 黄色い所→消防活動困難区域
→水路周辺にもある - 防災課が認定したもの
- ここが?と思うところもある
⑤東京消防庁による危険度
- 消防庁が認定している資料
- 「総合出火危険度」をみると…
- 練馬区→低い
- 多いのは東京東部
- 練馬区だけをみると桜台2丁目→地震がきたら大変なところとなるかもしれないが
- 東京都全体的に見て、どういう位置にあるか、どのくらいの危険度のなかに住んでいるか
- 総合的に判断しないと、防災の名のもとに、あれもこれも、「しょうがない」となってしまう
⑥「協議会」の状況
- 桜台地区まちづくりニュース
- 練馬区HPでも見られます
- 2号→小学生に練馬区が説明する個所
- 小学生の意見
「消防車が通れない狭い道路をなくしてほしい」
「ブロック塀があぶない」 - 危険だという話を聞けば、子どもからこういう意見が出るのは当然
- もう少し冷静に、どうするか話せるよう、大人側も勉強しないといけない
- 上石神井駅周辺のまちづくりの説明会では、道路をつくる、拡幅するという計画に対し、「車道は4mのままでいい」「1mくらい木を植えたり花を植えたりして」「でないとどんどん車が入って危ない」と要望する意見が出ていた
- 練馬区は基本的に「6m」の道路を確保したい方針
→工夫次第で様々な方策がある - たとえばブロック塀をなくす→土地収用なしにできること
⑦まちの変遷も参考に…
- 昭和11年
- 南側は宅地化、北側はほとんど畑
4:まちづくりと木密~「安全」と「まちの魅力」のはざまで
①木密が全部なくなった東京の魅力とは…?
★建築ジャーナル(建築関係の雑誌)
- 築地移転に疑問を投げかけた唯一の雑誌
- 2017年→木密の特集を組んだ
- いろいろな木密が撤去されていく時代
- 木密事業反対ではなく、進め方の問題
- まちの整理の仕方そのものに一つの疑問を投げかけている
- 木密に住む意味
- 木密がなくなれば、東京都が失うものとは
★防災都市づくり”様”がキライなもの
- 狭い道、曲がりくねった道、坂道
- 路地は危険
- カオスより、明快にしたい
- 木造戸建てより、鉄筋コンクリートの集合住宅がすき
- 密きらい
- 谷根千のようなまちはやめてくれ、となる
- これが全部なくなった東京…
- まちの魅力からかけ離れたものにならないか?
- 江戸東京博物館初代館長さんによれば、東京都の手本、見本はパリ→目指したが、そうならなかった→それが今の東京の魅力になっている…とのこと
②地形から考える練馬区
- 「谷戸」…石神井川にのびる水路あと、谷道
- TP=標高
→水路との高低差5mくらいが続いている - 桜台通り=尾根筋だとわかる(西側に水路跡)
③練馬区の道路は本当に遅れているか?
- 前川区長は練馬の道路は遅れているというが…
- 道路率→15.3%(練馬区の面積に占める道路の割合)
- 道路の長さから割り出すと、平均幅員は6.5メートル
- 低いほうだが、もっと低いのは中野あたり
- 平均階層2.2=練馬区の建物は高層住宅が少なく、戸建てが多い
- 建物は必ず道路に面する規定→戸建てが多くなるほど道路は長くなり、広くなくなる
- 大きく区画して大きなマンションを作れば道路は少なくてすむが
- 道路は戸建てで長くなり、広くなくてよい
- なぜ練馬区の平均幅員は低いのか?→広い道路が必要ないから
- モノとヒトが集積するために広い道路が必要
- 練馬区はほとんどが住宅街。集積するところがほとんどない
- だから大型道路を、練馬区自体は必要としなかった
- ただし、練馬区を通る道路、通過道路は広くせざるを得ない現状がある
- 練馬区は住宅街、中高層マンションすくなく戸建てが多い
- →平均幅員が小さい
- →単位あたりの道路が長い
- 「昔の農道を引き継いできたから、練馬の道路は遅れている」という結論は違うと思う
- 狭い道路のよさ、意味があることを考えないと、「防災都市づくり」において、大切なものが忘れられてしまう
5:補助172号線との関わりについて
- 補助172号線を前提にしたまちにするのか?
- 練馬区は、するともしないとも…言っていない
- 補助172号線の計画は意識しないわけではない
- 172がかかるところに道路を作ったりはしない
- ただ、172はいつできるかわからない
- それを前提にまちづくりはできない
- そのため、するともしないとも…どちらでもない、という回答
★桜台通りの課題はどうなる?
- 以前は入っていなかった西側を、区域に入れてきた
- 主要幹線道路→生活幹線道路をつくる
- 桜台通りは主要幹線道路→広げたい道路ではある
*主要幹線道路=12メートル
*生活幹線道路=6メートル - 桜台通りもできれば12メートルにしたい
質疑応答&ご意見
様々な質問、ご意見を頂きました!
- 道路を広げるよりも消防団使用の小さい消防車の数を増やすのがコスト的に安いのでは。
- 空き地があれば区が購入し、消防団の車両を増やすことが良いのでは。
- 平均階数は都内最小⇒住みやすい証拠。
- 木密エリア指定→行政で指定して、地域住民には何をするのか?中野→全額保証、猶予など施策がある。積極的な施策を。
- 老朽建築物も日々解体され、小さい分譲住宅に替わっている。散歩のたびに目の当たりにする。住宅居住者の高齢化により早晩解決するのでは。また、技術の革新で火災発生原因の対策が進んでいくのではないだろうか。
- 桜台に木造アパートが次々たっているが、規制がない。練馬区が望んでいる方向と違う方向になっているのでは。
- 災害時にはまず消防車が来ないということを想定することが必要である。東京都全体を考えると都心の大規模災害地に行くのではないか。
- 地形の特色、家や公園のありかたを考えてまちをつくる方向
→住みやすいまちができると思う。
今後も、計画にあわせたまちあるき会など、この桜台の木密事業についての発信を続けていきたいと思います。
今後もご注目、よろしくお願いいたします。