10/15「こども当事者研究のはじめかた」レポート
企画のはじまり
書籍『子ども当事者研究 わたしの心の街には おこるちゃんがいる』
https://kotononeya.stores.jp/items/620f7a061dca32103eb2bf4b
これはすごい!!!!すごい………!!!!!
と、とにかく感動。
本に登場する安本晃さんの母。
安本志帆さんが、直接の知り合いで……
(安本さんとは、議員になる、なろうとするずっと前の2016年、
こども哲学の場で出会いました)
これはぜひとも、安本さんに直接話をきかねば!!!
と、お招きすることに。
10月15日『「子ども当事者研究」のはじめかた』をオンラインで開催しました。
★安本志帆さん自己紹介
- 私立幼稚園教諭、みんなのてつがくCLAFA代表
- 日本科学振興会、カフェフィロ、こども哲学大人哲学アーダコーダ特別講師、未来の体育を構想するプロジェクト理事
…など、本当に幅広く&精力的に活動中!
こども当事者研究とは…
※ここからは、安本さんのお話です。
★現状
こどもが身近に出会い関わる大人(親や教師)は、
家庭や学校で起こる様々なトラブルや悩み事を
- 「問題」と呼び
- 「問題行動」として枠づけ、
- それを「解決」しようとします
たしかに家庭や教育現場では、困りごとがたくさん生じます。
しかし、それを「問題」とみなしているのは、こどもが自分の思い通りになってくれないと考えている私達大人です。
こどもの目線に立ってみれば、
- こどもを取り巻く環境が問題であり
- やりなさいと言われている課題が問題であり
- 何より大人達の自分に対する行動こそが「問題行動」ではないでしょうか。
★当事者研究とは
当事者の側から「問題」とされる事象を捉え直すことです。
医療が基準となっている諸概念
(「治療する」「リハビリする」「療育する」など)
によって困りごとを捉えるのではなく、
それをこども自身の基準に転換し、当事者自身が身近な人達とともに自分の困りごとを「自律探求」していきます。
そうしたときには、
- 「困りごと」は自分の視点から何とかすべきものになり、
- もはや他人からどうすべきかを指示される「問題」にはならなくなるのです。
学級や家庭で当事者研究を行うことの意義は
「自律探求」にあります。
学校や家庭では、同じ困りごとを抱える友達や、それを迷惑だと思う友達など、同じ学級や家庭という「共同体」で行える機会に恵まれます。
当事者研究において「当事者」は
障害のある児童や生徒、学生など社会的なマイノリティだけを「当事者」というのではなく、
一人ひとりが当事者であり、
学級がうまくいかない「問題」に頭を悩ませている教員、母親、カウンセラー自身も「当事者」だというところが特徴です。
「当事者」達が…
対話をもって能動的に「自律探求」を行うことは、今、こども達に一番求められることに思います。
当事者研究は、本人が自ら当事者自身の生活の質をあげることを可能にする実践です。
この営為を、いかに家庭や現場ではじめていくのかを参加者のみなさんと一緒に考えたいと思います。
子ども当事者研究の実例
★安本晃くんの場合
続いて、晃くんの研究をご紹介頂きました。
研究名は、
『「キモい」の研究~なぜ僕はキモいと言われるのか~』
中学生になってイジメを受けるなかで、生まれた研究です。
★研究のやりかた
- 晃くんの問いや意見にお母さんが質問
- それを晃くんが考える
- そうやって研究を進めていく
- 全国から共同研究者を一般募集して、「共同研究」も行った
- パワポはお母さんに手伝ってもらって発表(子ども当事者研究の全国交流集会で)
★どんな研究か
以下は、ヒカルくんの発表の中から、高口が印象的だったものをご紹介します。
- 「逃げてほしいっていう声」
→「でも…逃げるって技がいるんじゃない?」 - 「僕は逃げるために嘘をつく」
- 「逃げるを選べるもの、選べないもの」がある
- 「がまんさん」と「みとめたほうがいいおくん」がいる
- 「なんでがまんさんの言うことを聞くの?」
- 「先生にいう」→「噂になってダサいと言われる」→「バカにされる」→「みんなにいじられる」→ループ
- 「ループに突入すると…僕は心が傷つく」
- 「がまんさんの役割 僕のプライド、僕を守ってくれる」
- 「もしがまんさんが倒れたら?」
- 「がまんすることが強いわけじゃない?にげることが弱いわけじゃない?」
- 「わかったこと」
「逃げること=大切にされる場所への移動だということ」
「大切にされていないと僕は傷つくのだということ」
「僕は傷ついていたのだということ」 - 「僕が傷つかないようにすることは僕だけではできない」
…特に、
「僕は心が傷つく」
この言葉が出てくるまでに時間がかかったけれど、
その言葉が出てきたことが、大きな転換点だった
…という説明が、高口の心に残りました。
★フィードバックが大事
学校では教師から「嘘をつくな」とこっぴどく怒られたヒカルくんですが…
発表した全国交流集会では「嘘をつくなんてすごいね」と、いろんな人にほめてもらったそう。
「ヒカルくんの嘘は、役にたつ」
「これからももっともっと嘘を発信してほしい」
このフィードバックも、ヒカルくんにとっては大きなことだったそうです。
安本さんは、
- 嘘をついて怒られたことが、まったく違うフィードバックがかえってくることで、息子はリカバリーできた
- 保護者である私も癒された
- 苦労は分け合える
- 分かち合いの効果、意義といえるのではないか
と語っています。
学校や家庭という狭い世界で生きている子どもにとって、それだけじゃない、別の価値観があること、広い世界があると知るという点でも、とても大切なことだな、と高口は感じました。
★安本ジュンくんの場合
一方、弟のジュンくんがやろうとしている研究は…
「イライライーツの研究」
お友達が羨ましいと、
じまんする「じまちゃん」が入ってくる
→一緒に「イラちゃん」も入ってきて
→心がウニになって
→勝手に「イライライーツ」をどんどん発注しちゃう
…という研究だそう。
こちらもとっても面白い…!
ネーミングセンスも抜群!!
「もっとやりたい!」と、子どもからの反響が強く、
今後は「どうしたらイライライーツの自動発注をしなくていいのか研究をしたい」という話が出ているそうです。
「こどもたちの探求心、研究魂に火が付いたのかな」と、安本さん。
質疑応答&感想シェア
参加者からも、いろいろと質問が飛び交いました。
Q(以下、参加者):最初の一歩→どうはじめていくとよいのか
A(以下、安本さん):
探求、研究→たのしそうな響き。
お勉強しなさい、よりは「一緒に研究しない?」
一番求められるのは「想像力」
親が参加して、子どもがのってくることも
きっかけ、最初は親、でも悪くない
Q:当事者研究を最近知った
A:当事者研究の大きな理念に「分かち合う」がある
同じ苦労をもつ別の人を助けることができるサイクル
人に話し、自分も知恵をもらってリカバーできる
ゆるやかなつながり、メカニズム
Q:研究テーマは自発的に出させたほうがいいのか
A:研究なので、自発的なのがいい
当事者研究の理念「苦労の主人公になる」
「この苦労の主人公は私なんです!」が肝
大人が問わせたい問いを問う→説教くさい
大人がコントロールする手段ではない
Q:こどもによっては、自分が困っていることに気づかない。困りごとですらなくなっているときどうしたらよいか
A:たとえば「お母さんは僕のために怒っているので仕方ない」
→子どもはよく言う
→それって本当?
→問いだてをする時間が大事
その子の苦労を見つける過程も大事
もっと深刻な場合…
どこまでが引き受けられるか、引き受けるべきでないか
→無責任に引き受けない→しかるべきところにつなぐ
コミュニティ、横のつながり、ネットワークのちからを
Q:子どもから対話を引き出すコツは
A:「言わせたい」とは違う
子どものセンサーは正しくて敏感
「聞かせてほしい」→お願いをするとしゃべってくれる
★最後に、安本さんより
- 当事者研究は、一般的に持ち合わせている善悪をこえる
- 教育したい、今ある現状をよりよくしたい→目的めいたこと”ではない”
- 問題を問題にしない
- 普段の思考パターンと変わった見方
- 意識しないと、普段の善悪の倫理観に引っぱられる
- 心から笑い飛ばすこと→難しい
- 苦労とどう仲良く生きていくか、どう笑いながらともに生きていくか…
- ユーモアをもって、価値を反転させること
- 苦労を笑いにかえる、苦労をネガティブにとらえない
- 発想が面白いひとは面白い
- だから子どもがおもしろい
- 大人より倫理観にとらわれず、クリエイティビティが高い
- 大人にまねできない
- こどもにはかなわないなあ…
高口の感想
まず、子ども当事者研究は、哲学対話に似ているなと思いました。
お母さんや家族、共同研究者と哲学対話するように、進めていく。
哲学対話と違う点は、哲学対話では答えを出すことを重視しないけれど、こども当事者研究では、当事者のなかの心を見つめて、答えを出そうと、みんなで協力すること。
その答えは変わり得るけれど、そのときのそのひとにとっての、答えを出す。
さらにそれを、「共同体」「共同研究」でやることに、大きな意味があるのだと思いました。
仲間とともに、自分で答えを出していく過程そのもの
→誰か、大人、教師に言われたことじゃなく、自分で見つけていくこと…。
「議員の当事者研究」をやってみたくなりました(笑)。