種苗法改正…練馬区に影響は?「たねと食@カフェ」詳細レポート
昨年2020年1月、市民の声ねりま企画として、「イチから学ぼう!ゲノム編集、遺伝子組み換え|地域で、あなたができること」を開催。
その後、「種苗法」が、2020年12月、改正に。都市農業が盛んな練馬区にどんな影響があるのかが気にかかっていました。
まずは基本を知って、みんなで考えていこう…!ということで、たねと食とひと@フォーラムの吉森さん、西分さんをお招きし、『たねと食@カフェ』を開催しました。
たねと食とひと@フォーラムさんによる解説
★たねをめぐる二つの矛盾する考え方
- 「たねに民間に支配されてはいけない」
- たねは個人、私企業の所有物ではない
- 誰のものでもない
- 「たねにも所有権を認めるべき」
- 開発者の権利を知的財産権で保護すべき
- 民間による品種改良、投資を促進すべき
二つの考え方が出ていました。
★種子法と種苗法…目的の違い
種子法(主要農作物種子法)と種苗法……似ているけれど、全く別の法律!です。目的が違います。
今回改正されたのは、種苗法です。
種子法
- 対象:稲、麦、大豆
- 国の責務:食糧安全保障のインフラ等
- 都道府県の責務:種の生産、圃場審査等
- 2018年4月1日廃止
種苗法
- 対象:植物全体(花等も含む)
- 目的:新品種の保護・育成、流通の適正化
- 国:登録品種制度
【種苗法】登録品種と一般品種
登録品種とは…
- 作物では、一般に流通している品種の1~2割
- 育成者が新しい品種をつくる
→国に申請
→国が審査
→決定→登録 - 育成者権:最長25年間、果樹30年間に限る
- 登録の要件
- 新開発(出願1年以上前に販売→登録不可)
- 新しい特性があること(耐病、耐候・多収性、良食味、加工適性など)
- 審査
- 農研機構の種苗管理センター(区別性はジーンバンク)
- 技師が実際に見学、書類審査等
- 23万点(在来種含む)とも比較
- 栽培試験で、均一性、安定性等を確認
- 審査には数年かかることも!
- 育成者
- 公的機関:農研機構(国の研究機関)や都道府県等
- 民間事業者:大学、農協、種苗会社等
- 個人生産者・愛好家等
一般品種とは…
- 種苗法の対象外
- 作物では、8~9割
- 在来種(丹波黒大豆、練馬大根などの伝統野菜、下仁田ねぎ等)
- 品種登録されたことがない品種
- コメでは、あきたこまち、こしひかり等
- リンゴでは、ふじ等
- 登録期間が切れた品種
- サツマイモでは、紅あずま、安納芋等。
- いちごでは、とよのか、とちおとめ等。
登録→1~2割
規制対象外→8~9割
…と、ほとんどが対象外!
- 練馬大根は、登録品種ではなく、一般品種
- 種苗法の法改正による影響はナシ!
★なぜ今、改正した?
- 海外流出が、近年問題に…→登録品種の育成者を保護するため
*改正前、販売後の種苗の海外持ち出しは合法
→道の駅などで販売されている苗を持ち出すのは合法だった
*改正前も自家増殖後の種苗の海外持ち出しは違法 - 審査を充実させるため→品種登録しようとする育成者から、実費相当額を出願する
- 特性表の位置付けの見直し→裁判で違いを示せるように
★改正前の課題
【課題1】育成者の意図を反映するしくみがない
→改正後…
- 栽培地域や輸出先の国等、育成者が条件を指定できるようになった
- その表示が義務付けに
- 取材した岡山ぶどう育成者→「県内しか許諾しない」というところも
【課題2】自家増殖の実態がわからず、抑止できない
- 改正前の種苗法でも、登録品種の自家採取は、基本的にNGだった
- 農業者に限り、「例外」としてOKだった
- 種苗法改正前で、「岡山限定マスカット」や「福岡限定あまおう」があったのは、「例外の例外」
- 例外のうえに、「契約で別段の定めをした場合」という例外が書かれている
- ややこしく、現場が混乱。間違いも多かった
- 今回の法改正は、実態にそってわかりやすく、一律許諾制にした
- 「これまでと同じく、育成者と農業者が契約すれば自家増殖OK」ということ
- 登録品種でも、営利を目的としない家庭菜園や市民農園等の自家消費は、許諾は不要のまま!
★今回の法改正をめぐる疑問や不安
【疑問1】登録品種の開発低迷の主因は海外流出なのか?
- 関連予算の削減など、研究開発環境の悪化もあるのではないか?
【疑問2】法改正で、海外流出は防げるのか?
- 種苗法は国内法。国内での対策
- 海外では通用しない→海外流出を100%防げるわけではない
- ただし、許諾制→利用者を把握できるようになる
- 指定地域外での栽培が考えられるパターン
- 有機農業を普及させるなど、善意で無償譲渡する場合
- 経済的利益を意図する場合
- 注意喚起、心理的効果により、一定の流出抑制策にはなる
- 登録品種→知らなければ罰されない、知らないふりは違法
【疑問3】自家増殖(自家採種)が禁止されるのか?
- 「自由に生産できなくなる」「自家菜園、家庭菜園ができなくなる?」
という疑問が、SNS等で出回っていたが… - 正式には、「許諾が必要」ということ。
- 「自家採取、自家増殖の禁止」ではない
- 農業者が、登録品種の自家増殖+種苗の譲渡は、法改正前から違法
- 例外として、農業者自身が次期作付用に使う場合に限り、許諾なしの自家増殖が、法改正前は認められていた
- 法改正により、例外はなし→開発者の「許諾」が個別に必要に
- 収穫物を次期作付用に使用しない場合は、これまでどおり「許諾」は不要
【疑問4】許諾料はどの程度?高額になるのでは?
- JAや苗生産者ががかわりに払っていた場合もあった
(例)JAがまとめて育成者に支払い
→農業者の苗代に、許諾料が含まれていたケース - 農研機構(国の機関)や都道府県試験場=税金でやっているところ
→高額な上乗せは通常考えられない - 許諾料の有無や金額の設定は、育成者権者の判断
- 民間企業が許諾料を高額にするのではないか?という疑問があるが…
→選ぶのは農業者。コストに見合わなければ買わない
→市場から淘汰
=法外に高い設定にはできない、と考える - 取材では、「種子開発にはコストがかかる」「事業的にいいものではない」という声も
【疑問5】ゲノム編集食品との関係は?
- ゲノム編集技術で、付加価値を高める品種開発が加速
- 登録品種として出願される可能性あり
- ゲノム編集は痕跡が残らないとされている
- ゲノム編集だと表示されていればわかるが、されなければわからない
- ゲノム編集だと認知されないまま、歯止めなく拡散する可能性がある
- 防止措置が必要
- 開発者は、「許諾」制により、登録品種の自家増殖者が把握可能に
- 農業者は、ゲノム編集かどうかの把握が可能かは、不明
- 今後、国が具体化する「公表」「表示」の方法次第
- 「公表してほしい、表示してほしい」等、国に求めていく必要がある
種苗法改正にあたる、「たねと食とひと@フォーラム」の意見
- 1.許諾条件、許諾料の有無、金額の設定、期間等は、個別の許諾契約によるようですが、適切な運用が為されているかどうか、継続的に監視できるしくみを導入してください。
- 2.登録品種の利用者にとって、手続きのコストや手間を利用しやすく簡便なものとし、利用者の負担軽減を図ってください。
- 3.国内開発された優良品種を海外でも積極的に登録できるように、品種登録制度がない国にも日本の制度と調和を図りながら整備を働きかけてください。
- 4.付帯決議に、伝統野菜など重要な遺伝資源の維持支援に向けた新たな法整備、種苗の研究開発環境の改善に向けた具体策などを盛り込んでください。
- 5.ゲノム編集を利用した登録品種については、情報開示と表示の義務化を強く求めます。
質疑応答&意見交換
【Q】審査官、審査体制について
- 今回の法改正に、「審査体制の強化」がある
- 審査官→とっても細かく、大変な仕事。
- ほぼ3年かかる。プロ、専門家でないとできない
- 「特性表」→ひとつの作物、ひとつの種類について、コメでも80点。
- もっとすごいのは、花、庭木。花の色、花びらの形、茎…非常に細かく特性表に書き込み、すべてができるか、ほぼ3年かけて審査する
- 実際に育てる。
- 去年、咲いた花、作物と同じものが翌年も、その翌年もできるかどうか
=「安定性」→大切な一つの条件 - 「均一性」→たねを30個まき、全部同じものができるか
- 売った種でできなくては困る
- 何より「区別性」
- 開発した品種だけでなく、比較した品種もあわせて提出=現物主義
- 実際のものを、実際に数年かけて育てて比較し、判定する仕組み
- 在来種をそのまま持ってきて、出願が通ることはまずない
- そのチェックも、審査官がしっかりやることになっている
- 品種登録をする人が、お金を出して審査を受け、登録後も、1年ごとの更新でお金を払う
- 大変なのに、審査官の数がすくない
- 審査官も充実しなければいけないと、法律の側も今回考えた
- 今回の法改正には、これまでは、国と農研機構しかできなかった審査に→地方大学、県も協力できると書き込まれている
- 実際やるには人材育成、教育、手間がかかり、そこもやろうとしているようだ
- これまで、できていなかった状況
【Q】特性表の位置づけの見直しとは?
- 命あるものは、年月で変わっていく
- 20-30年、実際に運用するうちに、特性が現物
ではわかりにくくなる - 比較が難しい事態が現場では起きている
- 特性表を重視して、裁判の判定にも使えるようにしよう
=特性表の位置づけの見直し
【Q】地球規模の問題では?
【Q】種に関する国際問題は、遺伝子組み換え多国籍企業の経営倫理の問題、ブラジルやモザンビークなどの森林開発による土地収奪や土壌汚染問題、その他水資源問題や環境汚染、二酸化炭素排出による気候変動など様々な地球規模の諸問題を引き起こしています。
【A】
- 解決策は、地域にあると思う
- 特に遺伝子組み換えでいえば、同じものを大きく栽培するやり方でないと、収益にならない
- 日本のように多様な気候のもとでの多様なやり方にはなじまない
- 消費者の意思表示も多かった
- 小さい農業、昨年から注目
- 都会にできることは、それを応援すること、支えることではないか
【Q】遺伝子組み換えの問題は?
- アレルギーを起こす問題、可能性などはある
- 健康被害、環境汚染、たねが飛んで交雑するなど…
- 心配があり、実際に起きている
【Q】たねが自分の手もとに届かなくなるのでは…?
- 国内のたねの栽培→1割くらい
- 狭いため交雑もしやすい→たねを安定してつくることが難しい
- 危機管理から、
- 北半球、南半球、大陸何カ所の海外に、圃場を持っている
- ほとんどが海外でつくられている
- コロナでストップ
- 心配、懸念はある
- 日本の状況で解決は難しい
- たねが来なくなることは今のところないと言われている
【Q】品種改良は大事です。
- 取材で見学にいったとき「品種にまさる技術なし」と壁に貼ってあった
- 品種改良は企業がもうけるためでなく、日本の農業の発展のため
- 種苗法、品種登録制度の主旨、大前提
【Q】「F1」とは?
- 違う品種をかけあわせると、いい特性だけが出てくる作物ができる
- メンデルの法則を利用
- これができてから、農業者は人為的にたねを作ることができるようになった
- それまではかなり自然にまかせだった
- 「たまたま実が落ちにくい稲」等を見つけて選抜して品種改良していくのが1900年までの限界
- F1はかなり広く利用されている
- 今は、F1にしないとバラバラになり、機械で収穫できない
- F1=悪と考えないほうがいい
【Q】シャインマスカットが海外で栽培され、農家が困っている話を聞きました。
- シャインマスカットは農研機構で作られている
- さすが国の研究だけあり、どこでも誰でも作りやすく、普及しやすい
- 作りやすいから、中国や韓国でも根付いた経緯
- シャインマスカットの場合、国がグローバル社会に対応せず、海外に持ち出され、海外で名前を変えて産地化し、日本に逆輸入されそうになったり、東南アジアで売られている状況
- 日本のシャインマスカットが売れなくなることが想定されていなかった→今の事態に
- 韓国や中国にも品種登録制度があり、登録しておけばよかった
- 法改正で、たとえば道の駅の苗などの持ち出しが禁止になった
- 海外での登録は、農水省でも応援していくことになっている
- 権利を持っているのはたね、苗を作った人
- 国ではない
- 契約するのは国ではなく個別に
- 国がどこまで口出しできるか?の課題も
【Q】知って食べていきたい、食べて応援したい
- コロナで若いひとたちのIターンが増えている
- サラリーマンをやめ、実家に戻って有機農業やりたい人が増えている
- ある意味、チャンスかもしれない
- 食べるひとが、そういう人たちを応援していく
- 私たちは社会にいい影響を与えて変えていくちからを持っている!
【Q】今日のお話をきくと、自家採取はできるということ?
- 許諾制になる。契約すればOK
- 登録品種が切れればOK
- 土が違うので同じ味にはならない
- どこで作った何芋…がブランドになる
- 今でも沖縄では「沖縄の安納芋」とうたっている。特別だから
- ちなみに安納芋は、戦争のとき東南アジアに兵隊さんが行き、地元からおいしいお芋をわけてもらったもの
- 持ち帰り、沖縄でつくるとおいしいものができた
- 品質を安定させ、登録したのが沖縄の試験場
- 登録が切れて、全国でつくれるようになった歴史
- 本当に日本在来というものは少ない
- 登録品種は管理されるべきかもしれないが、そうでないものは世界中で高め合ってそこに根付いていくもの
- 昔は、地域から地域へ、たねは旅をした
- お嫁入りするときに、たねを持っていく風習があった地域も
【Q】たねはひとりじめするものではない?
- 一つの国が「俺たちのだよ」と独占すべきものではないと思う
- あきたこまちは品種登録されていない
- 秋田県が開発した品種
- フィリピンのお米をかけあわせてつくった
- 世界から助けてもらってできたから、誰でも使っていいよと位置づけにした
- そういう例もたくさんある。これからもある
- 悪意をもって、独り占めしよう思っている人ばかりではない
- それ以外のたねのほうが世界では多い
- 世界で売られているたね、市場を流通するたね→2割に満たない
- 8割は農村→隣と交換。生存農業、小規模農業をやっている人たち
- そちらを応援していけたら
最後に、メッセージ
- 知って食べる……大事なこと
- 極端な多国籍企業がでてくる…危うさはある
- 主要農作物のたね・質は、食糧安全保障、主権の問題
- 公的機関が責任をもつ仕組みが大事
- 知ったうえで行動……大事!!!